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概要

きらり 2018年1月号 No.202

 昨日のような今日があり、今日のような明日がある、そんな未来像を描きたいものだ|。これは農民作家の山下惣一さんの言葉です。なにかといえば、「経済成長だ」「グローバリゼーションだ」と言われる時代。その行き着く先は、TPPをみてもわかるように、人々の暮らしよりも企業の利益のほうが優先されるような社会です。 アメリカのドナルド・トランプ大統領は、就任早々にTPPからの離脱を表明しました。背景には、グローバル化で仕事を失い、人間らしい暮らしを送れなくなった多くの国民の怨嗟の声があります。「もう、いいかげんにしろ」というわけです。 そもそも農業は、グローバリゼーションになじみにくい産業です。たとえば、急斜面に開かれた棚田。なかには一枚五〇㎝四方のプチ水田もあります。日本の農業が国際競争力をつけるために、「一五〇万haの食料基地を想定する。その核として一〇〇ha規模の農業経営体を一万つくる」などと提言した団体がありました。しかし、国土の六割が山地に覆われ、起状に富んだ日本のどこにいったいそんな土地があるのでしょうか。 中山間地域で数枚で二〇aの畑を耕すような小規模家族経営もあれば、広々とした土地で三〇〇haの牧草地を営む大規模経営もある。つまり日本は、その土地の気候や風土に根ざした多様な農業、多様な農家の姿があるのです。JAはそんな農家のよりどころとして、人が人らしく生き続けられる社会をつくっていかなければなりません。 そのために、第一にたいせつなのは農を担う「人づくり」でしょう。農業従事者の平均年齢は六七歳(二〇一五年二月時点)で、JAの正組合員も全体の四六%が七〇歳以上(一四年度)です。ただ一方で、新規就農者が増えているという事実も見逃せません。一五年には六万五〇三〇人が新規就農し、二〇一〇年以降だと初めて六万人を突破しました。そのうちの三五・四%、二万三〇三〇人が四九歳以下です。JAの役目は、彼らが農業の担い手として自立し、末長く農村の一員として生きていけるよう、しっかりサポートしていくことです。住まいや農地はどうするのか、営農技術や経営はどこに相談すればよいのか、地域にとけこむにはなにが必要なのか…。彼らの立場に立ったきめ細かい体制づくりをしましょう。 たとえば、宮崎県のJA宮崎中央が設立した、㈲ジェイエイファームみやざき中央という子会社。同社には野菜苗、水稲苗を生産する育苗事業などいくつかの部門がありますが、それだけでなく、就農希望者を受け入れ、人材の育成にも取り組んでいます。 研修期間は一年と短期間ですが、とにかく内容が濃密。まず研修生一人一人に約一〇aのハウスの管理を任せます。栽培された農作物はじっさいに出荷・販売します。そういうなかでプロ意識も培おうというのでしょう。 また、研修生はJAの部会の目ぞろえ会などにも参加します。栽培技術の確認にもなりますし、就農後に地域に受け入れられやすくもなります。そのほかにも農作業安全講習会や農薬肥料取り扱い講習会、各種補助事業の説明会など就農してからじっさいに向き合うことになるであろうさまざまな問題を想定した研修が組まれているわけです。 「だけど、若手のおれが問題提起してもJAは動かないだろ」という青年農業者のみなさん。JA青年組織があるじゃないですか。現在多くのJA青年組織は、自分たちが抱える疑問や課題について、JAとの意見交換会を行っています。ただし、「言ってやったぜ」で終わらせてはもったいない。議論の内容や、みなさんの意見にたいするJAの考えや今後の対応を広報誌で公表してもらうなど、形に残すことがたいせつです。 それにこれからはJA理事になる青年農業者が増えていくでしょう。一五年の農協法改正で、JAは理事の過半数を認定農業者や販売・経営のプロにすることになりました。加えて理事の年齢や性別に著しい偏りが生じないよう配慮しなければなりません。 また、もっともポピュラーな理事の選出方法である「地区選出」に課題をはらんでいるのも事実。すべてのJAで、はたして適任者を選べているのか。すでに青年農業者が理事になっているJAもありますが、「青年」の「選出枠」を設けているJAは全体の一〇%程度です。「オレは責任負いたくない」なんて、言っていられません。現に営農や地域の問題に日々向き合い、農村の将来を背負うのは、みなさん自身なのですから。知っておいてよかったJA 第8回滋賀県立大学教授。専門は農業経済学、農業協同組合論。増田佳昭ますだよしあき著者人づくりと若手の起用15 kilari '18.1