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概要

きらり 2017年11月号 No.200

知っておいてよかったJA よくわからないが、とてつもなくスケールの大きな組織。「JA全農」と聞いて、そんなイメージを持っているかもしれません。 JA全農は、JAグループで経済事業を担う全国段階の連合会です。県段階の組織には、JA経済連や全農都府県本部があります。 さて、「経済事業」とはなにか、ということですが、一つが、「販売事業」。組合員が生産した農畜産物を組合員に代わって販売します。もう一つが「購買事業」。肥料や農薬、飼料、農機具などの生産資材、暮らしに必要な生活用品を組合員に供給します。「そんなの地元のJAがやればいい。なぜ全国組織が必要なんだ?」という疑問もあるでしょう。それには一五〇年ほど前のイギリスの例がわかりやすいでしょう。 当時のイギリス労働者は、横暴な悪徳商人によって、ろくな生活用品を買えずに劣悪な生活を強いられていました。そこで彼らは、一人1ポンドずつ出資し、安心して利用できる自分たちの店をつくり、生活を改善していったのです。それが協同組合の原点といわれる「ロッチデール公正先駆者組合」。とはいえ、生活用品のすべてを地元で調達できるわけではありません。ただ、州や国といった広いエリアでは、小さな町の労働者の組織など無力です。大きな資本に流通ルートを押さえられてしまえば、なすすべがありません。そこでロッチデールの人々は、他の組合と連合して卸売協同組合をつくり巨大資本に対抗していきました。 個人が集まってできるのが協同組合。JAでいえば単協です。その組合同士が集まったのが、「連合会」。小さな組織では不可能なことも、その力を合わせれば、より大きな力にすることができる、というわけです。 そこで、JA全農の仕事ですが、一例として畜産に欠かすことができない穀物飼料の供給について見てみましょう。本来、天候や世界の経済動向の影響を受けやすい穀物価格ですが、JA全農は日本の農家に質の高い穀物飼料を安価で安定的に供給しています。その秘密はアメリカのルイジアナ州にあります。ここに全農グレインというJA全農の子会社があります。 同社は、穀物の集荷から保管・流通・輸出に至るまで一貫した管理体制を構築。生産現場にも目を配っています。たいせつにしているのは、日本の農家のニーズ。高い品質の穀物飼料を安定的に供給できるよう、さまざまな工夫を施しています。 これが商社や商系メーカーだったらどうでしょう。生産や集荷の部分まで把握できるでしょうか。彼らは穀物メジャーから買い付けるしかありません。当然価格も量も品質も穀物メジャーの品ぞろえしだい。農家の事情は二の次でしょう。 これは、JA(単協)だけでは、とてもできる仕事ではありませんね。組織同士が連合することで、初めて不可能が可能になるのです。 ところが、二〇一五年に改正された農協法では、JA全農とJA経済連を株式会社にできる規程が盛り込まれました。規制改革会議の農業ワーキング・グループによると、株式会社になれば「ガバナンスが高まり、大きな付加価値を獲得できる」のだそうです。でも、なぜそれが株式会社でなければいけないのか。協同組合の目的は、力の弱い者が、その小さな力を合わせて豊かな社会を築いていくこと。JA全農の事業は、組合員である皆さんが利用することで、営農や暮らしを向上させていくためにあります。株式会社のように事業でもうけて株主に配当することが目的ではありません。 確かにJA全農が株式会社化する場合には、JAが出資することになっています。「その利益を農家に還元すればよい」という意見もあるでしょうが、いずれアメリカのグローバル企業などから「株式を公開せよ」という圧力が強くなってくるでしょう。そうなれば、外国資本に飲み込まれて、全農は乗っ取られることとなるでしょう。農家への利益の還元どころか協同組合組織の解体や農業の崩壊につながるかもしれません。 いままだ規制改革推進会議農業ワーキング・グループによってなされたこういった提言が採用されるところまでに至っていません。そのため、いまJA全農は、これまでよりより組合員のための事業展開を行う取り組みをすすめていますが、今後さらにその見える化に努める必要があります。これからもJA全農を巡る動きから、目が離せません。第6回滋賀県立大学教授。専門は農業経済学、農業協同組合論。増田佳昭ますだよしあき著者JAの組織同士が連合することで不可能が可能になる17 kilari '17.11