ブックタイトルTAKAMATSU ART LINK 令和2年度報告書

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概要

TAKAMATSU ART LINK 令和2年度報告書

特別寄稿 播磨 靖夫播磨 靖夫/HARIMA yasuo(一般財団法人たんぽぽの家 理事長)1942 年生まれ。一般財団法人たんぽぽの家理事長。新聞記者を経てフリージャーナリストに。障がいのある人たちの生きる場「たんぽぽの家」づくりを市民運動として展開。アートと社会の新しい関係をつくる「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」を提唱。近年では障がいのある人のあたらしい働き方や仕事づくりを提案する「Good Job! プロジェクト」を展開。また、1999 年からケアの文化の創造をめざし、「ケアする人のケア」プロジェクトにも取り組んでいる。平成21 年度 芸術選奨 文部科学大臣賞(芸術振興部門)受賞 地球上に人類が誕生して以来、ウイルスとの戦いに終わりはない。今、世界中に広がっている新型コロナウイルスによるパンデミック(世界的大流行)は目新しいものでもない。過去にも疫病、はやり病として度々人間を襲い、そのたびに生存する意識を高めてきた。哲学者のハンナ・アーレントは、人びとの間にあることを「生きる」と意味づけした。孤立せず、他者との関係の中に「ある」こと、それが「生きる」ことだといっている。しかし、コロナ禍で3密を避けよ、ソーシャル・ディスタンスを取れ、と言われ、人と人のつながりが分断されて「生きる」ことを根源的に支えている日常生活がいちじるしく制限されている。福祉の世界では「触れる/触れられる」という感応の相互交流(コミュニケーション)を大事にしている。それは他者とともにあり、他者とともに変化していくのが人間本来の姿であるからだ。このコロナ禍のもとで、人間が人間らしさを取り戻すための方策を考えなければならない。人類が今直面しているのは、想像力の圧倒的な欠如である、と識者は指摘している。目に見える範囲の出来事や利益のことで頭がいっぱいになり、物事を自己中心的に判断してしまう。「今だけ、金だけ、自分だけ」という風潮が広がっている。ドイツのメルケル首相は「食料品の不足はなく、誰も飢えることはないが、美術、音楽など精神の糧に飢えている」とコロナ禍の状況を述べている。そして、グリュッタース文化相は「文化はぜいたく品ではない。生命維持に必要不可欠な存在」と芸術文化の支援を表明している。世界には分けないとわからないものもあるが、分けてもわからないものもある。それはアートなど文化の領域に多くある。その分けてもわからない部分が生命にとって最も大切な根幹的な部分である。たとえば、障がいのある人たちのアートは、プリミティブな感覚から生まれている。言語を超えるものだけに、分けてもわからない。しかし、謎に満ちた表現が私たちを魅了するのは、生命の輝きを感じるからではないか。高松で障がいのある人たちのアートを普及する活動が長年にわたってなされてきた。彼らの潜在的可能性を開花させる、と同時に、多様性が求められる時代に自分とは異なる他者と出会い、影響し合い、ともに成長することの大切さを市民にアピールしてきたことは大変意義深い。新型コロナウイルスの感染拡大によって、これまでの生活様式やものの考え方、社会のあり様が大きな変化を迫られている。アートは世界を見る目を養い変化させる力を持っている。アートを通して世界を新たに見直すことで自他の心を、世界を変えることができる。これが私たちが世界とその未来に主体的に参加することでもある。アートは世界を変える一般財団法人たんぽぽの家(奈良市) 理事長 播磨 靖夫http://tanpoponoye.org一般財団法人たんぽぽの家31 | | 32