ブックタイトルTAKAMATSU ART LINK 令和2年度報告書

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概要

TAKAMATSU ART LINK 令和2年度報告書

岡部 太郎/OKABE taro(一般財団法人たんぽぽの家 常務理事)1979 年群馬県前橋市生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。大学在学中から障がいのある人の表現活動に関心をもち、奈良市にある「たんぽぽの家」にてさまざまな企画やプロジェクトを運営。近年では障がいのある人と新しい仕事やはたらきかたを提案する「GoodJob! プロジェクト」に取り組んでいる。特別寄稿 岡部 太郎この1 年、オンラインの活用が増え、催し物の一部は仮想空間に移っていった。障がい福祉や芸術文化の分野も同じ状況だといえるが、どちらも同じ空間で人と人が関わり合うという部分(アートについては舞台表現など)においては、最大限の配慮をして最新の情報をもとに、どこかの時点でやる、やらないの判断をするしかない。そう、様々な判断は自分たちがするしかない、という時代になってしまった。こんなときこそ自分たちが何を大事にしてきたかを考え直す機会だと思っている。失ったものを数えたり、できないことを悔やむよりも、できることに目を向けるのがたんぽぽの家のやりかただ。これまでもその連続で活動を続けてきた。それはコロナ禍でも変わらない。障がいのある人の生活、仕事、さまざまな環境が変化していくなかで、いったい何が「できること」なのかを探っている。いま、私たちが実施しているあるプロジェクトでは障がいのある人のコロナ禍での仕事づくりについて、困難と工夫のヒアリングをしている最中で、こういった現場からの声、とくにポジティブな声を反映させてこれからのアクションにつなげたいと思っている。そのなかで、コロナで変わるもの、変わらないものについて実感したものがある。ここ10 年にわたり、「奈良県障害者大芸術祭」において、「プライベート美術館」、「ビッグ幡in 東大寺」という二つの公募プログラムをしている。前者は奈良県内から、後者は国内全域から障がいのある人の作品を募集し、奈良市内のまちなかで店主などに作品を選んでもらったり、東大寺の大仏殿前で大きな幡(フラッグ)になった作品を展示する。今年も開催困難かと思われたが、様々な工夫をして作品公募を実施をしたところ、過去最高の作品数が集まり、事務局一同驚いた。あるいは、関西電力が18 年にわたり開催している障害者アート公募展「かんでんコラボ・アート」(たんぽぽの家は特別協力団体)も、これまでにない作品数が集まり、審査会もにぎわった。これらのことから言えることは、障がいのある人の表現したいという欲求はとどまることなく、どのような条件下でも創ることや伝えたいという意欲は衰えることがないということだ。もちろん、生命を守ることが第一である。特に私たちの拠点の奈良県は福祉施設などでのクラスターが多発していることから、たんぽぽの家でも緊張感をもって日々のケアや創作活動に取り組んでいる。見学者や協働者との連携も、例年よりは減っている。だからこそ、現場でのスタッフがメンバーと向き合う機会が増え、より深い関わりから新しい表現が生まれる可能性もある。遠方に行けなくなった代わりに、地域の魅力に気づいたり、つながりを再発見する機会にもつながる。何かができないということは、何かができる可能性につながっているのだと思う。一方で地域社会に目を向けた時に、一定の職種や専門性が発揮できない状況がある。前述のプライベート美術館では、いつも展覧会場として受け入れをしてくれているまちの店舗が、今年は難しいからと断られるケースが増えた。痛みは一様ではなく、個別である。痛みの感覚はその人にしか分からない。だからこそ想像する力が私たちには必要なのだと思う。救いは、やはり障がいのある人の表現だ。プライベート美術館の作品は、コロナテーマのものもあるが、むしろ希望を予感させる作品が多かった。アートで人と人をつなぐ機会を作りつづけること。どんな状況にあってもこの機会を創ることが、私たちが人間的で豊かな社会を創ることの鍵だと思っている。「できないからこそ、できることが みえてくる」一般財団法人たんぽぽの家(奈良市) 常務理事 岡部 太郎http://tanpoponoye.org一般財団法人たんぽぽの家Good Job !プロジェクトhttps://www.goodjobproject.com/21 | | 22